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200X年。宇宙旅行者のための基礎知識
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地球から宇宙へとロケットが飛び立って約70年、ガガーリンの有人宇宙飛行から約40年。宇宙に行った人の数は全世界で400名を超え、今や一般人の宇宙旅行も決して夢ではなくなりました。数年後には、宇宙への観光ツアーが実現すると言われています。もし実現したらぜひ行ってみたいけれど、未知なる宇宙に対する不安もいろいろ。そこで今回、宇宙では歯と身体にどんな変化が起こるのか、宇宙開発事業団の航空宇宙医師、嶋田和人先生にお話をお伺いしました。 |
無重力空聞では、身体に多くの変化が起こリ、スタイルも変わる
普段、特別に意識していませんが、私たちは重力のある世界で暮らしています。そして身体も、重力のある世界に適応するように調節されています。したがって、無重力空間(宇宙船内は完全な無重力ではなく、ごく小さな重力があります)である宇宙に行くと、身体にはさまざまな変化が起こるのです。
そのひとつが、「フルイド・シフト」と呼ばれる体液の移動です。航空宇宙医師の嶋田先生によると、「重力の影響がなくなると、血液をはじめとする体液は下半 身から上半身へと移動していきます。その結果、顔は満月のように丸くなり、脚は鳥のように細くなるのです。顔のむくみは2〜3日でとれますが、脚は宇宙にいる限りそのまま」とのこと。
また、無重力空間ではスタイルも変化します。たとえば、骨と骨の間が開いて身長が伸びてしまったり、内臓やお腹の肉が上に持ち上がってウエストが細くなったり。さらには、胸が厚くなったり、おしりがヒップアップしたりすることもあるようです。重力が変化することで、姿形まで変わってしまうとは驚きですね。
良くかんで食事すれば歯槽骨からのカルシュウムの流出をストップ
骨粗髭症と同じように、骨からカルシウムが溶け出し、骨がもろくなるという症状も起こります。正常な骨は古い骨の組織の溶解、新しい骨の再年を繰り返していますが、無重力空間では再生される速度が遅くなるのです。
「個人差がありますが、カルシウムは1か月で3%、1年間で15%ぐらい減ります。背骨や踵など地上で体重を支えていた部分からの流出が多く、無重力空間では骨に刺激が与えられないことが原因と考えられていますが、はっきりとした原因と対処法は研究中です」(嶋田先生)。
歯を支える歯槽骨からも同じようにカルシウムが流出することが考えられますが、1年間宇宙に滞在していた人も歯に問題はなかったそうです。歯槽骨の場合、「他の骨より代謝が遅く、食べ物をかむことによって刺激を受けているため、流出が抑えられているのではないでしょうか」とのこと。
初期の宇宙食は、チューブ食など柔らかいものが多かったのですが、現在は、ステーキや生の果物など歯ごたえのあるメニューも数多くあります。やはり、地上でも宇宙空間でも、しっかりかむことは、身体に良い影響を与えてくれるようです。
また、宇宙では味覚が変わるとも言われています。日本初の女性宇宙飛行士の向井千秋さんも、「地上で試食した時よりも、料理の味が薄く感じました。濃い味のもの、塩分の多いもの、甘いドリンクなどがおいしかった」と語っています。ただ、これは、味覚を感知する舌の味蕾が無重力の影響を受けているのか、環境が変わることによってそう感じているだけなのか、まだ解明されていないということです。
歯を磨いた後の水はどうやって捨てる?
それでは、何でもぷかぷか浮いてしまう無重力空間の中で、歯みがきはどのようにして行うのでしょうか。これは意外なことに、一般に市販されている歯ブラシと歯みがき粉を使っているそうです。NASAが開発した、泡が立たず、ゆすがなくても良い歯みがき粉もありますが、ねばねばした物は扱いやすいので、一般の市販品でもまったく問題はありません。
問題になるのは、口をゆすいだ後の水の捨て方。無重力空間では、水も落ちずに漂います。その水玉が機械にでも入ってしまえば、大問題を起こしかねません。向井さんも、初フライトの時は困ったそうです。
「飲み込んでしまう人が多いようですが、私は磨いた後の水を飲み込むことに抵抗があったので、タオルに向かって吐き出すことにしました。ところが、叶き出す勢いが強すぎても弱すぎても、水玉が浮遊してしまいます。考えた末、ティッシュペーパーを口の中に入れて水を吸い取るようにしました」とのこと。
地上では当たり前のようにしている動作も、宇宙では工夫が必要となるのです。
むし歯があっても治療済みなら宇宙飛行士になれる
これまでの宇宙飛行の歴史の中で、歯のトラブルが問題になったことはありません。しかしそれも、宇宙飛行士の採用条件の中に、歯に対する医学基準が設けられているからです。
といっても、その合格基準は、それほど厳しいものではありません。むし歯や歯周病もきちんと治療されていれば良く、義歯も外れなければ、歯に関しての基準はクリアできます。「歯の神経や、歯の根の周りに炎症があると、船内の圧力を下げた時などに痛みが起こることがあります。また、痛くて作業ができなかったり、食事がきちんととれないようでは困るので、きちんと治療しておかなければなりません」(嶋田先生)。
採用後は1年に1度健康診断を行い、その際にデンタルケアの指導も行われますが、基本的なブラッシングの仕方など、ごく一般的な指導を行っているそうです。「宇宙飛行士を目指す人は、健康に対する意識が高く、デンタルケアもきちんと行っているので、特別な指導をする必要もないんですよ」。
どうやら、宇宙空間に行っても、デンタルケアの習慣が正しく身についていて、良くかんで食事ができれば、歯については心配しなくても大丈夫なようです。
将来は、宇宙旅行どころか、他の惑星への移住も、もはや夢の話ではありません。でも、まだまだ謎が多い宇宙空間では、歯にトラブルを抱えていれば、思わぬ症状に脳まされるかも。その時になってあわてないよう、今から歯の健康について、しっかり考えておきたいものです。
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嶋田和人(しまだかずひと)
オハイオ州のラィト州立大学で学び、エァロスペースメディシンの専門医認定を受ける。宇宙開発事業団の宇宙医学研究開発室に所属。宇宙飛行士の選抜、定期検診、訓練中および飛行前・中・後の健康管理のほか、宇宙飛行に伴う身体変化の対策法の研究等を行う。
向井千秋(むかいちあき)慶鷹義塾大学にて医学博士号取得、心臓血管外科専門。1985年、宇宙開発事業団により、搭乗科学技術者候補者として選定される。94年、98年にスペースシャトルに搭乗。二度の宇宙飛行を行う。 [参考文献]---向井千秋の宇宙と体のおもしろい関係---NHK出版編自本放送出版協会/1995 |
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日本歯科医師会デンタルマガジン 朝昼晩 Vol.9(2000/7)より |
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