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 ものをよくかまない若者たちが「キレる。」
 自分で自分の感情をコントロールできずに「キレる」子供たちが社会問題となっています。
未成年による凶悪事件が世間を騒がすなど、問題は深刻です。このキレる原因のひとつは、食生活にあるという専門家もいます。
そこで今回は、日頃より脳の発達の見地から現在の子育てに警鐘を発し、また、本誌「朝昼晩」のコラム「大島教授のちょっと気になる脳と歯のハナシ」にも寄稿いただいている、京都大学名誉教授の大島清先生にお話をおうかがいしました。

紳経細胞がネットワークを広げて脳は発達する。
 人間の赤ちやんが誕生した時の脳の重さは約400グラム。それが1歳で倍の800グラム、3歳で1000グラムと急速に発達し、成人になる頃には約1400グラムとなります。赤ちやんの脳には、およそ1000億個の神経細胞があります。しかし脳の神経細胞は身体の他の部分の細胞と異なり、生後、減ることはあっても増えることはありません。それでは、脳はどのようにして発達していくのでしょうか。
 大島清先生によると、「脳に何か情報(刺激)が入ってくると、神経細胞にシナプス(結合部)の芽が生えてきます。その芽に向けてほかの神経細胞の神経繊維が伸びてきて、神経細胞同士がくっつきます。脳が発達するということは、神経細胞同士がくつっいてネットワークが広がっていくことを言います」とのこと。つまり、脳にさまざまな刺激を与えることによって、脳は発達していくのです。
【 食が人間の心をつくる構図 】
かむ
あごの動きを
通じた脳への刺激
かむことで得られる脳へ
の刺激は、身体全体で得
る刺激の50%にも達する
味わう
味・におい・歯触り
など口の中の感覚を
通じた脳への刺激
旬を味わい季節や自然
を感じることで、自然への
関心や畏敬の念を抱く。
家族との
食事
会話・しつけ
家族でテーブルを囲み会話
をしながらゆっくりと食
事を楽しむことで他者と
のつながりを感じる

脳のソフトウェアの発達が未熟な子供たちがキレる。
 脳の発達を考える時に最も大切なのは、前頭連合野と呼ばれる脳のソフトウェアにあたる部分を十分に発達させることです。
 「脳のソフトウェアとは、人間らしい行動をとらせるための司令塔です。人間は本能ではなく、ソフトウェアでものを考え、計画を立て、判断し、行動します。子供たちがキレるのは、このソフトウェアの発達が未熟であるから。頭にきた時に感情をコントロールできないからキレるし、計画的な思考ができないからキレた時に相手を簡単に傷つけてしまうのです」。
 では、どのようにすればソフトウェアは健全に発達するのでしょうか。それは、ソフトウェアがほぼ完成する10歳ぐらいまでに、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感を存分に使った体験をさせることです。五感を介した刺激は情報となって前頭連合野に送られ、ソフトウェアに組み込まれます。
 ところが今の子供たちはどうでしょうか。多くの子供たちはテレビやゲームなど、視覚や聴覚だけを刺激する遊びに夢中です。そして、その遊びの場は室内が中心です。
脳の発達のしくみ 生まれてから3歳まで、脳が猛スピードで
発達する間は、まずハードウェアがしっかりと作られる。
3歳を過ぎると今度は脳のソフトウェアができはじめる。
そして10歳頃にはソフトウェアの「配線」はほぼ完成する。
「自然の中に身を置き、実際に手や足を使って遊ばせることが、バランスのとれた五感刺激を与えることにつながります。自然体験を通してこそ、子供たちは新しいことを発見し、考え、工夫します。そして、そうした過程をたどることで脳のソフトウェアが磨かれて、すばらしい個性がつくられるのです」。さらに大島先生は「そのためにも、親が積極的に子供といっしょになって自然に触れて欲しいものです」と親の参加を促されます。
 つまり、子供が五感を使ってさまざまなことを体験するための環境づくりは、親の責任であるとも言えるからです。

食事が子供の脳を育てる。
 脳に与えられる情報には、五感刺激のほかに運動刺激があります。運動刺激とは、触れたり身体を動かすことによって得るもの。この運動刺激のうち、脳は50%という最も多くの情報をアゴから受けています。
 「私たちの祖先である」猿人の脳は、ある時期を境に飛躍的に成長を遂げました。これは、かみちぎって飲み込むだけの食事から、火で調理した物をアゴを使ってしっかり咀嚼する食事へと変化したからだと考えられます。その後、言葉を話すようになって脳はさらに発達していきました。きちんとした言葉を話すことはソフトウェアづくりの基本となる大切なものですが、実は言葉を話すために必要な脳進化の基礎をつくり上げたのは咀嚼だったのです」。
 人類の進化の歴史からも、アゴを使う=よくかむことは、脳の発達に大きな影響を与えることが分かります。ところが、よくかんで食べる習慣は、大人になってからでは身につきません。子供の頃にしっかりと習慣づけておくことが大切なのです。
 「アゴからの情報だけでなく、食事をする時に目で楽しみ、においをかぎ、舌で味わうことによっても脳は刺激されます。このように食事は、子供の脳を育てるのに重要な役割を果たすものなのです。だからこそ、毎日の食事をおろそかにしてはいけません。食事を作る人は、多様な味、食感のもの、旬の素材をかみごたえのある大きさ・固さで食べさせるように心掛けてほしい。そして、何よりも家族揃って食事をすることが基本です。
 会話を楽しみながら、ゆっくり時間をかけてよくかんで食事をしてこそ“おいしい”と感じるし、脳は刺激を受けるのです」。
 子供たちの脳を健全に育てるために、今一度ご家庭の食事を見直してみませんか。


大島清(おおしまきよし)
1927年広島県生まれ。東京大学医学部卒。ワシントン大学助教授、京都大学霊長類研究所教授を経て、現在、京都大学名誉教授、愛知工業大学客員教授。専門は大脳生理学。執筆、取材、講議、講演などにエネルギッシュな活動を続ける。「子ともが伸びる脳の育て方」「立ち止まれ、その子育て」「子洪の脳カは9歳までの育て方で決まる」など、脳の発達の見地から子育てに関する著書も多く記している。

日本歯科医師会デンタルマガジン 朝昼晩 Vol.7(2001/2)より 

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