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 顔学でみる歯と顔のいい関係
 100万年以上かけて進化してきた現代人の顔
 実は、この50年間で、日本人の顔は驚くほど変わったといわれます。今顔に何が起きているのか、どうすればいい顔になれるのか、人間顔を総合的に研究する日本顔学会の理事である東京大学教授・原島博先生に歯と口の役割と顔との関係についてお聞きしました。

日本人のあごが危ない! 小顔の未来にある深刻な歯のダメージ
 男女を問わず現代人が理想とするのは小顔。人気アイドルはもちろん、今の若者を見ると一昔前より明らかに顔が小さくなったようです。とはいえ、右の逆三角形の顔(現在の顔の変化がそのまま進んだら…?と想定して、国立科学博物館人類研究部長の馬場悠男氏が骨格を予測(原鳥先生が顔部分をコンピュータで肉づけしたもの)は少し不気味ではないでしょうか?実際に100年後の顔がこうなるということではなく、今、日本人の顔がいかに激しく変化しているかを知るためのシミュレーションなんです。原島先生は特に顔の下半分が相対的に小さくなったことを指摘されています。その原因は戦後、日本人の食生活が一気に変化したこと。ハンバーグやパスタなど、かまずに飲み込んでも大丈夫なくらいやわらかいメニューが増え、食事時問も短くなったために、かむ回数は激減しました。下あごを動かす咀嚼筋が発達しないとあごは小さくなり、さらに歯を支える歯槽骨も退化します。歯の大きさは変わらないので歯並びは悪くなり、必要な歯が生えてこない場合も。咀嚼能力が低下すれば基本的な消化吸収に支障をきたし、不健康な状態といえるでしよう。欧米人の場合は、何世紀もかけて今の小さな顔に進化してきました。日本人が今経験しているのは数十年で数百年分の変化。色々な歪みが出るのは当然で、このままでは歯のトラブルを避けられません」とのこと。原島先生が理事を務める日本顔学会は様々な職業の会員の方がおられますが、一番多いのが歯医者さんだとか。それだけ顔と歯は密接な関わりがあります。

なぜ口が大切か?人間の遣化がもたらした口の新しい役割
 顔と歯の関係は、顔が進化してきた歴史をたどると様々なことがわかります。まず顔の中で最初にできたのが口。その周りに鼻、目、耳ができ、それら感覚器官が集めた情報を処理するために脳ができました。
 そもそも動物の口は食べ物にかみつきやすいよう、顔の前に飛び出しているのが特徴。また相手にかみついて攻撃する道具でもあったので、口自体が武器になるほど硬かったのです。しかし直立歩行を始めた人問は、食事や攻撃に手を使うようになります。人間の口は奥へと引っ込み、口周辺はやわらかく変化。口の周りを自由に動かせることで人問の顔には表情が生まれ、のどを使って多様な声を発することで言葉が生まれました。人間にとって口は食べるためだけでなく、コミュニケーションの器官にもなったわけです。
 あごが小さくなる弊害は身体面だけにとどまりません。口は考えや気持ちを伝えあう上でも重要な働きがあり、かむことは表現力や思考力の成長と大いに関係があります。つまり口の退化は、コミュニケーション能力の退化を意味するのです。
子供と大人の顔の違いは顔の上半分と下半分のバランス。上半分は子供時代とそう変わらず、大人の顔は下半分(鼻から下)が大きくなっています。大人になることは、顔の下半分が発達すること。現代人はその力が弱まっているといえます」と原島先生。現代の小顔信仰は、社会全体が幼児化している象徴といえるかもしれません。

身休と心のあリ方で顔は変えられる。いい顔をめざそう!
 可愛らしさや優しさが求められる今の風潮が現代人の顔に反映されるように、顔は時代背景や生活環境、職業、考え方などによって驚くほど変わります。変えられるなら「いい顔」になりたいもの。原島先生が提唱される「いい顔になるための13ヵ条」のべースには、次のような顔の哲学があります。
 いい人だなあと感じればその人がいい顔に見えてきます。顔は見る人と、見られる人との関係の中に存在し、そして人から人へと伝わるもの。だから自分がいい顔になることは、人もいい顔にすることなります。」また原島先生はメディアが発信する顔のトレンドにあまり惑わされてはいけない、と注意されています。TVの中の顔には自分との関係性がなく、人と人の間に本来つくられる顔のあり方は成立しません。一方的な情報を意識しすぎると自分の顔の個性が失われ、世の中は同じような顔であふれてしまいます。
 いい顔の解釈は様々ですが、少なくとも量産できるクローン人問のような顔ではないはず。生き生きした顔とは「人間らしい顔」であり、人間だけが持つ口の役割は決して軽視できません。いい顔になるには、いい歯から。しっかりかむことは身体と心を豊かにする必須条件です。未来の日本人が冒頭の顔にならないよう、歯と口の健康を守ることは私たち現代人に課せられた使命といえるでしよう。

【 いい顔になるための顔訓 13カ条 】
@自分の顔を好きになろう
A顔は見られることによって美しくなる
B顔はほめられることによって美しくなる
C人と違う顔の特徴は、自分の個性(チャームポイント)だと思おう
Dコンプレックスは自分が気にしなければ他人も気づかない
E眉間にシワを寄せると、胃にも同じシワができる
F目と目の間を離そう、そうすれば人生の視界も広がる
G口と歯をきれいにして、心おきなく笑おう
H左右対称の表情づくりに心がけよう
I美しいシワを人生の誇りにしよう、美しいハゲを人生の誇りにしよう
J人生の3分の1は眠り。寝る前にいい顔をしよう
K楽しい顔をしていると、心も楽しくなる
Lいい顔、悪い顔は人から人へ伝わっていく

        

原島博(はらしまひろし)
1945年東京都出身。東京大学工学部卒業後、同大学院博士課程修了、工学博士。現在、東京大学大学院情報学環長、工学部教授を兼務。コミュニケ」ンヨンエ学の研究で知られる。95年日本顔学会を設立、現在は理事として「顔学」の構築と体系化に尽力する。99年、上野で開催された「大顔展」の企画を担当した。

日本歯科医師会デンタルマガジン 朝昼晩 Vol.12(2003/7)より 

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